世界が認めた技術で革新する広告ビジネス Prism Partnerの挑戦

国内キャリアシェアNo.1のドコモが持つ1億規模の会員データと、サイバーエージェントの先進的な広告技術。両社の強みを融合させ2022年に設立した「株式会社Prism Partner」は、独自開発した機能により、ROAS400%超(広告費の4倍以上の売上)の実績を記録。さらに、新たな広告最適化技術が国際的な学会でも評価を受けるなど、着実に成果を上げています。
協業によって見えてきた新たな広告事業の可能性とは――。
Prism Partnerの棚澤社長と神戸副社長、そして今回の実績を支えたキーパーソンである当社データサイエンティストの桂川と金子にお話を伺いました。
国内通信最大手×インターネット広告のパイオニア、新会社設立の舞台裏
― まず、Prism Partner設立の背景についてお聞かせいただけますか。
棚澤氏:「Prism Partnerは2022年6月30日に設立されましたが、その準備は約1年前から始まっていました。ドコモでは、通信事業以外の新たな領域、特に広告事業の拡大を戦略的に進めていました。既に株式会社 D2Cや屋外広告の株式会社 LIVE BOARDを設立するなど広告事業を展開していましたが、さらなる拡大を目指していました。」
神戸:「ドコモさんが持つ1億以上の会員基盤やdポイントのデータは、広告ビジネスにおいて非常に魅力的なアセットです。そこに、私たちサイバーエージェントがこれまで培ってきたデジタル広告市場での国内トップクラスの『販売力』『運用力』『広告プロダクト開発力』を掛け合わせれば、新たな広告価値を創造できると考えていました。」

ドコモにて広告事業の拡大に携わり、2022年にサイバーエージェントとの合弁会社Prism Partnerの代表取締役に就任。ドコモが持つ豊富なデータを活用した新しいプロダクトの企画開発などに取り組む。
― サイバーエージェントをパートナーに選んだ理由や、当初期待されていた強みについてお聞かせください。
棚澤氏:「サイバーエージェントさんは、GoogleやMeta、LINE、Yahoo!など主要なプラットフォームの広告販売において常にトップクラスのシェアを持っています。広告代理店としての販売力だけでなく、『売れているプロダクトとは何なのか』を熟知している点が魅力的でした。また、デジタル販促の分野でも早くから取り組んでおり、ドコモが持つdポイントやd払いなどのアセットを活用してデジタル販促市場を拡大したいという我々の思いと一致しました。こうした流れでドコモ経営陣からの強い期待もあり、会社設立に至りました。」
― 他の企業との協業も検討されましたか。
棚澤氏:「ドコモは常に様々な領域で協業を進めています。その中でインターネット広告の領域で取り扱い実績ナンバーワンのサイバーエージェントさんと協業することは非常に重要でした。広告事業を伸ばす上で、サイバーエージェントさんの持つ販売力、技術力、そして業界での存在感は非常に大きな魅力と感じています。」
データサイエンスの力で実現した2つの快挙—「国際学会での論文採択」と「ROAS400%超の広告成果」
― Prism Partnerではどのようなサービスを展開されていますか?
神戸:「我々の一丁目一番地は、ドコモのデータです。ドコモは国内キャリアシェアNo.1で、唯一30%以上のシェアを持っています。これは、広告を見るユーザーの3人に1人がドコモユーザーであることを意味します。そのデータを活用したDSP「Prism Partner DSP」を提供することで、広告主様の売上を最大化できる可能性があります。

サイバーエージェントより出向。インターネット広告やデジタルマーケティングに精通し、Prism Partnerにて新たな広告ソリューションの価値創出に尽力している。
― 「Prism Partner DSP」ではどのような技術開発に取り組まれたのですか?
桂川:「大きく2つあります。1つ目はクリエイティブ選択の機能ですね。具体的には最適なクリエイティブを自動で特定し、活用することで配信効果を最大化する機能です。
従来、A/Bテストが一般的に最適な手法とされてきました。しかし、各クリエイティブの表示回数を均等に割り当てるため、高い精度を確保するには多くのコストがかかるという課題がありました。そこで、A/Bテストに代わる効率的な手法の開発に取り組みました。」
金子:「そこで私たちは、強化学習の一分野であるバンディットアルゴリズムを活用しました。特に、Top-Two Thompson Sampling(TTTS)※ という比較的新しい手法を採用しています。これにより、高い精度と最小限のコストで最適なクリエイティブを自動的に特定し、広告効果を最大化することが可能になりました。」
※Top-Two Thompson Sampling(TTTS):強化学習の一手法で、確率的なアプローチを用いて最適な選択肢を効率的に見つけるアルゴリズム。特に、広告配信におけるクリエイティブの最適化など、試行回数を抑えながら効果的な選択を行う場面で活用される。
桂川:「また、本機能に関する論文が、Web分野の国際トップカンファレンスである『WSDM 2025』の『Industry Day』において採択されました。『Industry Day』は世界を代表するテクノロジー企業が参加する重要な技術交流の場です。TTTSという比較的新しい手法をオンライン広告におけるクリエイティブ選択に応用した新規性と実環境での効果を証明できた実用性が評価されたのだと思います。」
金子:「サイバーエージェントでも、実サービスに実装した研究が論文として採択されるケースは多くありません。特に、協業事業における技術提供成果の採択は、自社内での完結する研究よりも調整が難しいですが、今回はその協業事業での技術提供成果が初めて論文として採択され、さらにサービスへの組み込みも実現しました。」
桂川:「この手法の採用に至った経緯として、サイバーエージェント内での知見や経験が大いに役立ちました。特に、共同で論文を執筆したサイバーエージェントのAI研究組織である「AI Lab」のメンバーの協力は欠かせなかったと思っています。」

2023年にサイバーエージェントへ入社。データを活用し機械学習の産業への応用に従事。Web分野の国際トップカンファレンス「WSDM 2025」にて論文が採択されるなど、研究にも活躍の幅を広げている。
― 事業と研究組織の連携によってこの社会実装を実現できたのですね。もうひとつの成果についても教えてください。
桂川:「Prism Partner DSPに実装している主要な機能の一つとして、ドコモのデータと機械学習を活用して開発した『アクティブインサイト』があります。これは、ユーザーの行動データを基に購買意欲が高いと予測されるユーザーを特定し、ターゲティングの観点で広告配信を最適化するものです。」
神戸:「この『アクティブインサイト』を活用し、Prism Partner DSPの広告面からAmazonのストアページへの送客において、ROAS(広告投下費用に対する売上高)が400%以上と高い成果を上げている事例もあります。また、dポイント経済圏を活用したリテール分野での販促施策も成果を上げており、メーカーや小売業者の売上向上に貢献しています。」
棚澤氏:「国際的なカンファレンスで論文が採択されるような世界的にも評価をされているデータサイエンスチームの技術力が、ROAS400%超という具体的な事業成果として実を結びました。」
「スピード」と「堅実性」を両立する組織体制
―クリエイティブ選択や『アクティブインサイト』をはじめとして、これまで様々な機能を実装するにあたってどのような苦労がありましたか?
金子: 「まず、私たちにとって膨大なユーザーデータを持つドコモさんのような事業会社のデータを扱うのは初めての経験でした。データの取り扱いや技術選定など多くの課題がありました。」
桂川:「実際の広告配信では期待通りにいかないことも多く、その対応策の検討や検証に多くの時間がかかりました。また、広告配信機能が広告運用にどこまで、どのように介入すべきかの判断も重要な課題でした。そこで、人手と機能のバランスを考慮した最適な運用を目指しました。」
― 開発プロセスで特に工夫したことは何でしょうか?
桂川:「新しい手法の実環境への実装にはリスクがあります。特に論文採択に至った新機能については、仕様の検討に多くの時間をかけました。その中で、データサイエンスチームのリーダーである金子さんや事業責任者のようなオンライン広告のエキスパートとは多くの事項をすり合わせました。
その上で、事業責任者をはじめとする経営層による最終的な採用の判断においては、開発者の取り組みへの理解と信頼してくださったことで、Prism Partner DSPの全キャンペーンに適応することとなりました。これにより成果を最大化できたと思っています。」
金子:「僕もその点では同じですね。DynalystやPrism Partner DSPの機能開発に計6年携わってきた経験から、『理論上は良くても、実際の運用では考慮すべき点が非常に多い』と認識していました。そのため、実装を担当した桂川とはもちろん、事業責任者との密なコミュニケーションを心がけました。」

2018年にサイバーエージェントに入社以降、スマートフォン向けパフォーマンス広告配信プラットフォームDSP「Dynalyst」の広告配信アルゴリズムの開発に従事。Prism Partner設立当初からデータサイエンスチームのリーダーとしてデータ活用や機能開発を推進し、「WSDM 2025」にて採択された論文を共同執筆。
― 開発とビジネス、双方の信頼のもと最速で実装が進んだと。実際に今回の機能実装については4月に現場で構想を固めて、7月には実装を終えているというスピード感で行われたと伺っています。意思決定プロセスについてはどのような工夫をされましたか?
神戸:「サイバーエージェントは、意思決定のスピードの速さで知られていますが、ドコモさんは国内最大手の通信キャリアとして、特にデータに関する判断に慎重を期す必要があります。その中で、棚澤さんにうまくバランスを取っていただいているのが、Prism Partnerの強みだと感じています。まだ立ち上げフェーズにある事業会社として迅速なプロダクト開発が求められますが、慎重さとスピード感を両立させる今の意思決定の仕組みは、事業成長において重要な役割を果たしていると思います。」
棚澤氏:「ドコモとして慎重に多角的な視点から判断を行うためステップは大切にしつつ、Prism Partnerにおいては、より迅速に意思決定ができる体制を整えています。この柔軟かつ効率的な意思決定が、事業のスピードを支えていると感じています。」
データ×技術で描く未来 リアルとデジタルを繋ぐ次なる一手
― 両社の協業による強みはどこにあると感じますか?
棚澤氏:「ドコモとサイバーエージェントは企業文化やビジネスの進め方が異なりますが、それがかえって新しい発想が生まれる要因になっています。特にサイバーエージェントさんのスピード感と挑戦する姿勢は刺激的で、Prism Partnerを通じてドコモグループに新しい価値を還元できたらと思っています。Prism Partnerっていう会社が面白いことやってるぞ、と周りから思われるようなことができるといいなとは思いますね。ドコモの子会社なのにこんなことやってるの? みたいなね。」
神戸:「異なるバックグラウンドを持つからこそ、お互いの強みを補完し合える関係になっています。今後もこのシナジーを活かし、新しい価値創造に取り組んでいきたいですね。」

― 最後に、今後のビジネス展開についてどのような挑戦を考えていますか?
棚澤氏:「ドコモの持つアセットとサイバーエージェントさんの技術力を組み合わせて、新しい広告プロダクトを生み出していきたいです。特にID-POSデータなどの新たなデータとの連携も強化し、オンラインとオフラインを統合したマーケティングの実現を目指しています。」
神戸:「私たちとしても、ドコモさんのデータを最大限に活用し、広告主様にとって価値のあるソリューションを提供することが使命だと考えています。そのなかでもリテールメディアやリテールデータの活用は、今後の市場においても大きな可能性を秘めている分野です。サイバーエージェントのAI技術とデータサイエンスの知見を活かし、より精度の高い広告プロダクトをはじめとしたマーケティングソリューションの提供に取り組んでいきます。」

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